遷延性意識障害になってしまった被害者を、家で介護していきたいとお考えのご家族もいらっしゃるかと思います。
常に誰かの目が届くようにする必要がありますから、仕事を辞めざるを得ないかもしれませんし、ご家族にどのような経済的負担があるのか予測することはできません。
さらに、国からの一定の援助があったとしても、それがいつまで続くかも不確定です。
よって、ご家族が遷延性意識障害になってしまった場合、相手方にはできる限り高額の損害賠償金を支払って貰うことが望ましいかと思います。
事態の重大性から、相手方となる損害保険会社は、誠意のある対応をしてくれると思われますが、最終的には自社の利益を考えながら行動するわけですから、本心ではできる限り安い賠償額で済ませたいと思っているということも間違いありません。
このようなことから、遷延性意識障害の事案では、以下の5点が被害者側と損害保険会社側で争いとなることが多くあります。
- 現在、被害者が入院をしているのに、後で自宅介護をすることを前提に介護費を請求できるか
- 親族が一定の年齢(一般的には67歳)を過ぎた後、職業介護人による介護を前提とした介護費を請求できるか
- 住宅へのエレベーターやスロープの設置にかかる住宅改造費用や車両の改造・購入費用を請求できるか
- 損害賠償金を1年ごとに支払う方法が認められる
- 余命を数年とした上での損害賠償が認められるか
1.現在、被害者が入院をしているのに、後で自宅介護をすることを前提に介護費を請求できるか
被害者は痰のからみなどでも危険な状態となってしまうため、一般的には必ず誰かが常に見ている必要があります。
そこで、ご親族が被害者を自宅で介護する場合には、1日8,000円程度の付添看護費が認められることになります。
これに対して、被害者が入院をしている場合は、通常は完全看護状態となっていますので、親族が仕事をやめ介護に専念しなくてはならないという状況ではありません。
多くの方は、仕事を続けながら定期的にお見舞いして、体を拭いてあげたり話しかけたり音楽を聞かせてあげたりするなど、できる範囲内での看護をします。
この場合にも1日8,000円程度の付添看護費が認められるかが問題となります。
今、病院の介護体制を利用していても、今後、自宅に引き取る可能性はあります。
示談とは、今後のあらゆる可能性を含めて一切を解決するというものですから、介護費を上乗せしないで示談してしまえば、後に自宅で介護をしたいと主張しても、損害保険会社は介護費を支払ってはくれません。
よって、遷延性意識障害の被害者について示談をする際には、後々の自宅介護の可能性も考えて、介護費を請求することが望ましいです。
むしろ、介護費は高額になることが多いので、ぜひとも請求しなくてはならないものです。
今、自宅介護をしていないのに自宅介護を前提とした介護費を請求できるのかは裁判で良く争われますが、今後、自宅で引き取る可能性があることを丁寧に主張、立証すれば、裁判所は将来の自宅介護の可能性を考慮して、介護費を認めてくれることが多いです。
2.親族が一定の年齢を過ぎた後、職業介護人による介護を前提とした介護費を請求できるか
裁判の世界では、一般的に67歳まで仕事ができるとされています。
本来は人それぞれ違うはずですが、一律に扱う方がスムーズな裁判につながり、また、裁判ごとの統一もとれて裁判の結果の予測可能性が高まるということで、67歳という取り扱いがされています。
なぜ、67歳なのか明確な根拠はありませんが、数字としては、妥当なものだと思います。
ここで、介護についても、67歳を過ぎた親族に介護をさせるのは酷ではないかという議論があります。
この主張によると、68歳以降は職業介護人の介護を認めるべきということになり、もちろん、被害者側にとっては、この主張が認められた方が有利になります。
職業介護人による介護費は、地域によってまちまちですが、およそ1万2,000円~1万8,000円となります。
親族の介護費は1日8,000円ですから、職業介護人による介護費が認められた方が有利だというわけです。職業介護人による介護が認められる否かで、介護費はかなり変わりますので、とても重要な問題だといえるでしょう。
職業介護人による介護費について、損害保険会社は裁判外の示談で認めてくれることはありませんので、裁判をする必要があります。
裁判においては、介護をする人の年齢、体調や、68歳以降も介護を強要するのは大変であるということを丁寧に主張立証すれば、裁判所は職業介護人による介護費を認めてくれる可能性が高くなります。
当事務所でご依頼を受けた後遺障害2級の案件でも、職業介護人による介護費が認められました。
3.住宅へのエレベーターやスロープの設置にかかる住宅改造費用や車両の改造・購入費用を請求できるか
現在の裁判例によると、介護に相当な範囲で住宅改造費などが認められています。
例えば、被害者が遷延性意識障害と診断された事案で、名古屋高等裁判所平成18年6月8日は、浴室改造費1,218万円を認めました。
他にも、新たな土地に在宅介護をするのに適した家を新築するための建築費用と通常建物の建築費用の差額である1,895万円の請求が認められた件もあります(名古屋地方裁判所平成23年3月18日)。
4.損害賠償金を1年ごとに支払う方法が認められるか
損害保険会社側は、損害賠償金を1年ごとに支払うという主張をしてくることがあります。
通常、示談や裁判をする際には、被害者の平均余命の介護費を一括で支払ってもらいます。
しかし、統計的には遷延性意識障害者は平均余命前に他界することが多いと言われています。
そこで、損害保険会社は、被害者が平均余命まで生きる蓋然性が低く、平均余命までの介護費を一括で支払うと支払い過ぎになる可能性があるということで、1年ごとに支払う、という示談を主張してきます。
しかし、損害保険会社が破産してしまった場合に、被害者はそれ以後の賠償権を失うことになってしまうため、1年ごとに支払うという示談に応じることは、被害者にとって大きなリスクになります。
したがって、1年ごとに支払うという主張は、はっきりと否定するようにしましょう。
5.余命を数年とした上での損害賠償が認められるか
遷延性意識障害の被害者は、統計的には、平均余命前に他界することが多いと言われています。
このような事情から、平成6年11月24日に出された最高裁判所の判例でも、平均余命を短く考えることを前提とした損害賠償額の計算が認められてしまいました。
損害保険会社側では、この判例を根拠に遷延性意識障害者の平均余命を短いものとして、賠償額を提示してくることがあります。
この点については、最近の地方裁判所や高等裁判所の裁判では、平均余命を制限せず余命までの賠償額を認めるものがほとんどですから、損害保険会社側が平均余命を限定して示談金を計算してきたとしても、それに応じる必要はありません。
損害賠償問題のまとめ
以上5点の他にも、複雑な計算が必要となるという問題があります。
損害保険会社からの示談金の提示は、何千万円という単位のものがされると思います。
しかし、一度示談をすると、その後は一切賠償金を得ることができません。
そのため、示談には慎重になってもなりすぎることはないのです。
さらに、ご親族の遷延性意識障害というご苦労を抱えながら、相手方と交渉をするのは精神的にも非常に負担がかかります。
今後の介護のことを考えれば、交通事故と遷延性意識障害に詳しい弁護士に相談し、示談や裁判を依頼したほうが良いでしょう。
遷延性意識障害に詳しい弁護士に依頼すると、ほとんどのケースで、損害賠償額がアップします。
弁護士費用よりも、弁護士を入れたことによって得られる賠償額の方が格段に多くなりますから、費用ばかりかかって意味がなかった・・・なんてことにはならないかと思います。
また、弁護士に依頼すれば、自分で交渉をするという心理的負担や迷いからも解放されます。
いくらかかるのか分からない、という心配は必要ありません。
当事務所では弁護士費用を明示しています。
近年では、明確な弁護士費用を設けている事務所も多く、いくらかかるのかがあらかじめわかるようになっています。
ひとりで悩まず、思い切って法律事務所に電話をしてください。必ず被害者様の助けになってくれることと思います。
<ご相談について>
当事務所では交通事故の賠償交渉に関するご相談を広くお受けしております。
交通事故の賠償交渉でお困りの方は是非当事務所までご相談ください。
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